2022-01-01から1年間の記事一覧

2022年 映画のはなし

今年、観られてよかった作品を振り返る。 映画は去年に比べて数は全然観られていない。でも、映画館には、仕事がある中で行けていた方だと思う。今思うと、新しい生活やこれまでと全く違う人々との付き合いに翻弄される中で、自分のかたちを保つために映画館…

陽光たち

散歩の帰り道、金色の陽が当たる道を選んで歩いた。夕陽や青空、降り頻る雨たちなどの前で、わたしたちは等しくされる、と思う。わたしたちはみな、それらを平等に受け取らざるを得ないからだ。例えばわたしがいまどんな現実を生きていて、どういう人間かと…

最終日の卵と二度寝の夢

卵を茹でている。換気扇をつけないでいると、卵が鍋の底にごとごととぶつかる音や、水が沸騰して暴れる音が不規則に混じり合って聞こえてくる。9分のタイマーをかけて、その音を聴きながら本を読む。水の、水にしか立てられない音が好きだ。実家にいたころ、…

荒地に手向けの花束を

無秩序な感情たちが暴れ回ってゆっくりと憂鬱の形になっていく。わたしは布団に臥せる。毛布を抱き締めて、目を瞑る。朝の新しくて眩しいことの、なんてつらいことか。この途方もないしんどさ。ずっと、わたしの気が済むまで今日が終わらないでいればいいの…

窓の向こうの生活について

アパートの近くの駐車場で煙草を吸いながら、周りの家々やアパートの窓を眺めるのが好きだ。明かりがついていたり、真っ暗だったり、ちょうどいま明かりがついたり、窓の向こう側を人影が横切ったりするのが見える。いずれもひとの生活を感じる。それを感じ…

遠い遠い遠いところへ

遠い遠い遠い、ここではないどこかへ行きたい。遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い場所。長い人生を思うと憂鬱で堪らなくなる。いいや、違う。長いから憂鬱なのではない。かなしいから、憂鬱なのだ。でも、かなしいことをひとせいにしてはいけない。わたしは、選…

思い出と抱擁/また会えますように

夜、小窓を開けて、煙草を吸う。煙が上がっていく先を辿ると、雲が流れてゆく空が見える。星は見えない。周りのアパートやマンションの建物に遮られて見える範囲が狭いので、月も見えない。東京の真っ黒な夜空を見ると、実家のあるまちの、満天の星空を思い…

夏盛り、茫漠として

抜けるような青い空と突き刺さるように一筋一筋が鋭く眩しい日差しを仰ぎながら、夏が来ている、とごく当たり前でつまらない実感を噛み締める。今年は夏という季節に対する感慨がまるで他人事のようだった。これまでのように長い夏休みもないし、海やプール…

かたち

パンと水だけでは生きていけない。わたしにはやはり物語が必要だった。 自分のかたちがわからない。毎日一生懸命一生懸命一生懸命一生懸命やっているのに、仕事が終わるのは早くても20時を過ぎる。毎日9時間10時間を超える労働をしている。会社に遅くまでい…

息継ぎをして夜を泳ぐ

煙草を吸う。アイスを食べる。好きなアイドルの歌を聴く。涙が出る。漫画を読む。涙が出る。かなしくないのに、かなしくて、涙が出る。虚しくないのに、虚しいような気がして、涙が出る。わたしは今、二十三歳で、もう子どもとは言えないのに、大人なようで…

二〇二二年四月の終わり

わたしだけの人生がはじまった。住むところも、着るものも、食べるものも、全部、自分の力で稼いだお金で責任を持つ。水道のお金も電気のお金もガスのお金も携帯の使用料も、わたしの生活にかかるお金のぜんぶ、わたしが支払う。わたしの生活はわたしがわた…

傾いた陽のひかりたちについて

急速に季節は変わる。街が春にのまれる。朝番のバイト前、まだ少し肌寒い早朝の街を歩きながら、ふいに強い花の匂いを嗅ぎ取って、愕然とした。冬にはなかった甘くて鮮やかな香り。まだ遠いと思い込んでいた冬の終わりは、もう目の前を通り過ぎていたのかも…

綺麗なダムを探したい

あの木曜日から、また少しずつ生活が狂っていく。翌日の金曜日、電車の中でいつもの癖で何気なくツイッターを開いたら、目に飛び込んできた情報に、何かを考えるより前に涙が出た。あ、いま、だめだ、と思った。受け止めたり考えたりする間も無くわたしを殴…

日曜、曇り時々雨の午後と夕方の間に思い出すこと

体も心もくたくたのバイト帰り、喫茶店で珈琲と焼き立てスフレを注文する。上間陽子の海をあげるを読んだ。昨年の誕生日前に、離れて暮らす弟から、誕生日何が欲しい?と連絡が来たので、欲しい本のリストを送った。後日、その中の三冊ほどがAmazonで送られ…