2023-01-01から1年間の記事一覧

わたしの王国

引越し翌日の朝、南向きの大きな窓からたっぷりと朝日が差し込む部屋で、段ボールと荷物に囲まれながら、淹れたてのコーヒーを啜る。新しく眩しい光の中で、窓の向こうに続く、見慣れない、けれどなんでもない景色を眺めながら、ふと、いま座っているここは…

サントメールの僥倖/緩やかに閉じる

この胸に在り続ける孤独と渾々と向き合い続けることが、自分の人生なのかもしれない、とふと思うときがある。それは他人に埋めてもらうものではなく、その不変で不動の石のような存在と自分で向き合い、自分でそれとの付き合い方や解釈の仕方を変えていく。…

この季節を歩き終えるまで

十一月三日、休日。 木曜日の飲み会は、あまりにも疲弊させられ、削られることが多く、一次会で早々に帰宅した。この日は朝の9時からアポイントが詰まっていてかなり忙しかったのもある。ものすごく疲れていて、眠たかった。こういう時、適当に挨拶をしたり…

melting ice cream/さみしさ

わたしはアイスクリームを食べるとき、最も急いている。積極的にそうしたくてそうしているというより、そうしなければ、という強迫観念に襲われて、という方がちかい。タイムリミットが決まっていることや電車の時間など、状況によって急ぐことは人並みにあ…

夏季休暇初日日記

夏の休暇がはじまった。もっと、解放感や充実感、みずみずしい期待に満ち満ちてはじまるかと思いきや、それは重たい疲労感と共にはじまった。感情らしい感情はなく、ただ、全身に広がるしんどさときつさ、疲労感としか言いようのないこの感覚。ここまで書い…

どこにもいけないよる

22時を過ぎて台所に立つ。鍋に水を入れ、お湯を沸かす。冷凍庫からだいたい50グラムぐらいに分けた豚肉の袋を取り出して、レンジを回す。胡瓜を半分に切って、半分は冷蔵庫に仕舞う。たくさん泣いた目の、瞼の裏側がいたい。半分の胡瓜を丁寧に千切りにする…

まばゆい季節でダンスする

連日、近くの映画館が満席になっている 新宿駅構内はまっすぐに歩けず、サロンに遅刻しかけた 煙草を吸う窓から顔を覗かせると、斜向かいのマンションのベランダに鯉幟が泳いでいる 風の強い日の煙草は短くなるのが早い 青い空を仰ぎながら、本を読んで、う…

四月、さみしさに醒める

肌寒い四月の曇り空の朝は、すこしさみしい。連日の春真っ盛りとでも言わんばかりの眩しい快晴と暖かい気候に浮かれていたのが嘘だったように感じる。あれはほんの束の間の夢であったと突きつけられるような、暖かくて心地よい夢から目覚めるような。駅のエ…

春のこわいものたちについて

室内で聞く雨の音が好き。時々、通りを走る車が水を裂くような音を出して遠ざかっていくのも好き。雨を見るのは、ここのところ、あまり好きじゃない。どうしてか、気分が沈むから。その青灰色のトーンが落ち着く時もあるけど、今日はなんだか虚しい気のする…

「忘れる」/「忘れたい」

※『違国日記』10巻の一部内容に詳しく触れています。 忘れるということはうれしいことだと思う。忘れるという動作はほぼ無意識のうちに行われているので、忘れたということを自覚すらできないのが忘れるということだ。だから、厳密には、「忘れる」と「うれ…

散ってゆくもの、うまれるもの

ⅰ いつも眠れないけれど、今日が特別眠れないのは、明日が二週間ぶりの病院だからだ。目を瞑ると、不完全な闇が横たわっている。ちらちらと何かが瞼の裏をちらつく。真っ暗じゃない。不完全が故に、眠りに落ちてゆけない。瞼は重いのに、意識は覚醒していて…